建設業者が知っておくべき!労働者派遣法違反

現場でよく聞く「応援」「人工」…それ、もしかして違法かも?

建設現場では、急な人手不足や専門技術が必要な際に、他の会社から「応援」に来てもらったり、「人工(にんく)」で人を手配したりすることがよくありますよね。長年の慣習として行われているため、特に疑問を感じていない方もいるかもしれません。

しかし、その「応援」や「人工」の頼み方が、知らず知らずのうちに「労働者派遣法」という法律に違反しているケースがあるのをご存じでしょうか? 労働者派遣法は、会社の規模や請負・下請けの関係に関わらず、すべての事業者に適用される大切な法律です。

「うちは大丈夫」「まさか違法だなんて」と思っている方も、この記事を読んで、御社の現場での人材活用が法律に違反していないか、ぜひ確認してみてください。

労働者派遣法第4条に規定|建設業は原則「労働者派遣」が禁止されています

労働者派遣法は、特定の業種において労働者派遣事業を原則として禁止しています。その「労働者派遣が原則禁止されている業種」の一つに、「建設業務」が明確に定められています。これは、労働者派遣法第4条第1項に規定されています。

では、なぜ建設業は原則禁止なのでしょうか。その理由は、建設業特有の複雑な重層下請け構造にあります。建設業務で安易に派遣労働を認めると、

  • 元請けの責任が曖昧になる
  • 現場での指揮命令系統が混乱する
  • 労働条件の低下や事故発生時の責任の所在が不明確になる

といった問題が生じやすいため、派遣が原則禁止されているのです。これにより、建設業務における安全確保と、責任の明確化を図っています。

何が禁止なの?「労働者派遣」と「請負」の決定的な違い

「応援」や「人工」を頼んだら、全て違法になるわけではありません。問題となるのは、それが「労働者派遣」と判断されるかどうかです。

労働者派遣とは、「派遣元の会社に雇用されている労働者が、派遣先の会社の指揮命令を受けて労働する」ことを指します。

一方で、建設業で一般的に行われるのは「請負(うけおい)」「業務委託」です。これらは、仕事の完成を目的とした契約で、請け負った会社が自社の責任と指揮命令のもとで業務を遂行します。

つまり、「誰が、誰に、どういう指示を出しているか」が大きなポイントとなります。

労働者派遣と判断される具体的な「判定基準」

  • 指揮命令関係の有無:
    • 派遣先の会社(依頼した側)が、直接的に「〇〇して」「明日は△△の作業をして」など、作業の内容や進め方、時間配分まで細かく指示している。
    • 派遣元の会社(人を出した側)が、業務の遂行に関する指示を全く出していない、または形式的になっている。
  • 時間管理の有無:
    • 派遣先の会社が、派遣労働者の出退勤時間や休憩時間を管理している。
    • 残業を指示したり、勤務評価を行ったりしている。
  • 業務の独立性:
    • 派遣元の会社が、業務に必要な資材や機材を準備しているか。
    • 業務の計画、進捗管理、品質管理などを派遣元の会社が行っているか。
  • 報酬の支払い方:
    • 作業員の労働時間に基づいて報酬を支払っている(請負では通常、仕事の完成に対して報酬が支払われる)。

これらの要素が複数当てはまる場合、たとえ「請負契約」と締結していても、実態は「労働者派遣」と判断されるリスクがあります。特に注意したいのが、「偽装請負(ぎそううけおい)」と呼ばれるものです。これは、契約上は請負なのに、実態が労働者派遣になっている状態を指し、非常に厳しい罰則が科せられます。

例外:建設現場「以外」の業務は派遣が認められることも

建設業務そのものは派遣が禁止されていますが、建設会社が行う業務でも、建設現場で行われる「建設業務」に直接該当しない業務であれば、労働者派遣が認められる場合があります。

例えば、

  • 本社での一般事務
  • 経理業務
  • CADオペレーター(ただし、現場での指示を受ける場合はNGとなる可能性があります)
  • 営業・広報活動

といった業務であれば、労働者派遣を利用できる可能性があります。重要なのは、その業務が「建設業務」に直接関連する現場作業か否かという点です。

なぜ、そんなに厳しく禁止されているのか?

建設業で労働者派遣が原則禁止されているのは、単に法律だからというだけでなく、建設業特有の安全と責任の確保という非常に重要な理由があります。

  1. 安全確保と事故責任の明確化: 建設現場は危険が伴う場所です。指揮命令系統が曖昧になると、事故発生時の責任の所在が不明確になり、安全管理がおろそかになる可能性があります。
  2. 品質管理の徹底: 請負では、仕事の完成責任が請け負った会社にあります。しかし、派遣では指揮命令権が派遣先に移るため、品質に関する責任があいまいになりかねません。
  3. 労働条件の保護: 間に複数の会社が入ることで、労働者の賃金や労働条件が悪化するリスクがあります。

これらの問題を未然に防ぎ、健全な建設業界の発展を促すために、労働者派遣は厳しく制限されているのです。

適法な人材活用を行うために|今すぐできる対策

もし、御社の現場で「これは派遣と判断されるかも…」と感じた場合でも、慌てる必要はありません。以下のポイントを確認し、適法な人材活用を目指しましょう。

  1. 契約内容と実態の再確認:
    • 「請負契約」を結んでいる相手に対し、御社が直接的に指示を出していませんか?
    • 作業員の出退勤管理や休憩時間まで管理していませんか?
    • もしそうであれば、契約書の内容と、実際の業務の進め方を見直す必要があります。
  2. 指揮命令系統の明確化:
    • 請負契約であれば、作業員への指示は請負元の会社が責任をもって行うことが大原則です。御社の現場担当者が、つい直接指示を出していないか、社内で徹底しましょう。
  3. 業務の独立性の確保:
    • 請負元の会社が、自社の責任で作業計画を立て、必要な機材や資材を準備しているかを確認してください。
  4. 社内研修の実施:
    • 現場監督や管理者など、人材の手配に関わるすべての従業員に対し、労働者派遣法の基礎知識と「何がNGで、どうすれば良いのか」を周知徹底することが重要です。

労働者派遣法違反の重すぎる「罰則」と企業リスク

「知らなかった」では済まされないのが法律違反です。労働者派遣法に違反した場合、非常に重いペナルティが科せられます。

  • 刑事罰:
    • 無許可で労働者派遣を行った場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
  • 行政処分:
    • 労働局からの指導や勧告、さらには事業改善命令事業停止命令、最悪の場合には建設業許可の取り消しといった行政処分を受ける可能性があります。建設業許可の取り消しは、御社の事業継続に直接関わる重大な問題です。
  • 企業イメージの失墜:
    • 法律違反が公になれば、企業としての社会的信用は大きく損なわれます。新規の受注が困難になったり、既存の取引先からの信頼を失ったりする可能性もあります。これは、事業の存続にも関わる非常に大きなリスクです。
  • 損害賠償請求:
    • 違法な派遣によって被害を受けた労働者や派遣元から、損害賠償を請求される可能性もあります。

これらのリスクを避けるためにも、適正な人材活用が不可欠です。

まとめ:安全な建設業経営のために、適法な人材活用を

建設業における「労働者派遣法」は、時に複雑に感じられるかもしれません。しかし、これは御社の安全な事業運営と、従業員の適切な労働環境を守るために非常に重要な法律です。

「うっかり」が重大な違反につながり、これまで築き上げてきた信用や事業そのものを失うことになりかねません。少しでも疑問を感じたり、不安な点があったりする場合は、決して自己判断せず、速やかに専門家にご相談ください。

当事務所は、建設業許可申請の専門家として、御社が安心して事業を継続できるよう、労働者派遣法に関するご相談や、適法な人材活用のアドバイスをさせていただきます。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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